中国・市場経済化過程における木材需給および流通に関する研究

陳 大夫


 本論文は中国経済の改革・開放後における林業および木材産業の市場経済化がどこまで移行したのか、その過程でどのような特徴がみられるのか、について現在利用できる林業関係の統計資料、既存の文献、および北京・上海周辺、福建省などでの実態調査に基づいて分析したものである。序章に続き5章、および終章から構成されている。
 序章では森林の重要性を指摘し、それが人々の生活を支え、特有の文化を育んできたことを述べ、中国における木材問題を明かにした。第1章では森林資源の現状を歴史的に明かにするとともに、資源の地理的分布について東北・内モンゴル林区、西南高山林区、東南低山丘陵林区の3大林区を分析し、中国における木材資源の分布の特徴として資源と人口との間に逆の相関があることを示した。
 第2章は木材生産活動について分析した。森林の所有は全て国有と集団所有からなっているが、その経営・利用形態はさまざまで、これが木材生産や林産物の供給に影響を与える大きな要素になっている。国家が所有・管理している森林が国有林で、そこには国有林区林業局がおかれ国家の計画に基づいて生産を行っている。また、集団所有林(集体林区)は構成員の全体所有であり、構成員が所有権限、使用権と支配権をもっている。国家は集団所有の経営体に対して指導的な計画を下すのみである。この二つの生産主体の生産実態を95年資料に基づき分析し、国有林区の非統制材の増加、南方集体林区における商品材の増加を明かにするとともに、市場経済化における運輸の重要性を指摘した。また、木材加工産業の実態については国有林区や集体林区における巨大木材国営企業群と、かたや農村部の零細な郷鎮企業とが併存する構造であることを明かにした。しかし、国営企業群が大きな変革の中にあることは第4章の個別実態分析で解明される。
 第3章は木材流通の展開過程の分析で、人民公社体制の確立から解体までの中央指令的計画下の展開、70年代末からの改革・開放によって市場システムが浸透する過程、さらにそれが三つのクラスの木材市場の整備によって国内市場の統一化が図られる現段階の3期に区分し解明した。第1期には社会主義社会の実現のために木材商品の生産流通が一元化される時期で、国家経済の発展計画のもとに「統一調達・統一販売」が実施された。国家は木材の自由な取引を規制し、自由な木材市場を厳しく統制するとともに、国家が木材価格を定め、この価格の算定にあたっては森林造成に必要な再生産費用を参入しなかった。価格が低く抑えられたために、木材を効率的に利用しようというインセンティブが加工局面で働かず、また伐採跡地の更新も進まないという状況をもたらした。第2期は商品経済への移行期で、木材流通は国家計画によって調整されるものと、市場メカニズムによって調整されるものとが併存する。価格も国家固定価格と自由市場価格の二重価格になる。生産局面では集団所有の森林を林家や農家に分けて請負管理させたり(責任山)、はげ山や荒廃地を請負造林させたり、さらに集団所有の里山を「自留山」として農家に分け経営させた。国有林区では国家の所有権を残したまま、企業と請負契約を結び、企業の責任、権利、利益関係を明確にし、企業のインセンティブを引き出そうとした。第3期は90年代改革の時期で、社会主義市場経済の確立を目指し、その目標は「国有企業の民営化、国内統一市場の形成」におかれた。そこでは国営企業が経営自主権をもつ企業へ改革が進む一方、全国統一的な市場を整備することが重要な課題であり、これまでの林業部、物資部系統の国営流通企業を通ずる流通と競争するチャンネルをつくることが必要であった。国家クラスの木材市場の北京国家木材交易市場や省クラスの木材市場をこのような視点から分析した。
 第4章は市場経済化がどの程度進展しているかを、実態調査をもとに分析した。・近年における木材消費構造の変化について、改革・開放政策が工業の発展、都市部への人口集中をもたらし、都市開発・建築ブームが木材市場へ波及している実態について詳しく分析した。・流通の実態を北京建材街で分析し、それが所得の中下層、すなわち一般庶民向けの建材商店街であるとし、これを支えているのが国有林区の中小工場と郷鎮企業であることを明かにした。・福建省での調査では、国営企業の民営化の実態を組織の変化を通して明かにした。そこでは株式総会が最も重視される組織であること、総会のもとに役員会が、さらにそれをチェックする監事会が置かれていること、役員会から選出される総経理が各部局を取り仕切っていること、「政企分離」が実施されていることなどを指摘した。・さらに産地における丸太の生産流通の担い手 − 林場、采購站(産地集荷問屋)、貯木場の競争構造を明かにした。
 第5章は木材需給の展望とそこで果たす市場経済の意義にについて明らかにし、終章は以上のまとめである。


戻る