林業情報システム構築に関する研究
─国産材振興の観点から─

加藤 滋雄


 林業における情報化は、森林資源情報のコンピュータ処理、林業・木材関連企業におけるコンピュータを利用した経営管理や行政による林業統計情報のオンラインサービスなど徐々に広がりをもって進展してきた。また、昨今、林業の情報化に対する社会的ニーズは著しく高まっている。本研究は林業・木材産業分野における情報化の実態を解明し、その到達点の意義と役割を検討することを通じて効率的な林業情報システムの構築を目指したもので、林業生産から木材の流通・加工を含めた総合的な活性化を図る「流域管理システム」などの具体化に際しての情報化のあり方を提示しようとしたものである。
 第1章は情報化の先端産業の発展過程を考察するとともに、林業における情報化の課題を明らかにした。これまでの情報は単発的な利用に止まり、利用技術の蓄積がなされて来なかった。例えば、森林資源に関する行政情報は一方的に情報提供が行われ、林業関係者が実践の場で必要としている情報が提供される仕組みになっていない。林業・木材業者自らが情報の発信・収集に参加する仕組みをつくることが、こうした事態を打開することである。
 第2章は林業情報の内容について分析し、情報システムの構築にあたって留意しなければならない情報特性を解明した。林業情報には、森林計画制度に基づく森林資源情報のほか、統計情報として林業センサス、木材需給情報、木材価格情報、さらに林業にかかわる技術情報や林家・企業の経営情報などがある。そしてその特性は、森林資源情報のように数十年のサイクルに及ぶ情報のほか、経済情報と同様に日々変化する情報があること、森林蓄積情報にしても計画のための情報と取引のための情報では、許容される情報精度に幅があること、また林業情報は行政情報の比率が高く、公開情報と非公開情報が混在していること、などである。
 第3章では林業・木材産業各分野の情報化の現状と情報化に対するニーズを分析した。林業生産から流通・加工に至る過程の個々の担い手の情報化は極めて跛行的で、コンピュータの導入が進んでいる製材業、原木流通業者(市場)、製材品卸売業においても企業内での業務管理、財務管理などのOA化に止まっているのが現状である。しかし、情報のニーズは極めて高く、地域の保育・伐採の計画化や「流域管理システム」の取り組みを進める上で林家を支援するような情報化、原木市売市場を中心とした林家、素材生産業者、製材業者間の需給調整に関する情報ネット、仲買商の大工・工務店を支援するシステムなど、個別企業にかかわる企業内情報化から同業あるいは異業種企業間の情報のネットワーク化のニーズが高まっている。森林資源情報、施業の集団化、林業労働力の需給調整など林業情報のシステム化は静岡県森林組合連合会などで模索されているし、日栄不動産では取引先を結んだオンライン受発注データ交換システムが稼働している実態を明らかにした。しかし、これまでの取り組みは個別的、部分的に開発されたもので、ユニークなものもあるが、国産材の振興という観点から情報システムを考察したとき限界をもっていることを指摘した。
 第4章は前章の分析を踏まえて、林業情報システムのあるべき基本方向を明らかにした。それは個別に現在樹立されている情報システムを一つのネットワークに統合化し、個別のシステムはこのネットワークシステムに位置付けるという考えである。そして、個別システムを統括するとともに、各分野の個別システムの開発を支援する機能をもつ中核的な組織として公的性格をもつ「林業情報センター」(仮称)を構想した。ネットワークシステムの基本構成は、「林業情報センター」と林家や企業、関係団体を通信回線で接続するスター型のネットワークからなり、森林資源情報システム、原木流通情報システム、製品流通情報システム、労働力調整システム、消費地情報システムおよび情報提供システムの六つのシステムから成り立っている。
 第5章は第4章の構想を具体化するための開発手法を明らかにした。上の六つのうち著者が開発した森林資源情報システムと製品流通情報システムについて提示した。前者については資源情報管理、計画支援、施業集団化支援の三つのネットワークシステムと行政の個別システムを構想し、さらにこれらのシステム設計にあたって森林簿の既存情報の事前整備について明らかにした。また、後者については製材品流通情報VANを構想しており、メーカー、木材問屋、製材品市売市場など製材品流通にかかわるすべての企業の参加を可能としたオープン・ネットワークで、これを構築するにあたって統一商品コードおよび統一伝票を整備した。加えて、システムの普及にあたって留意すべき情報の権利と情報公開の問題、およびプログラム著作権とその流通問題について明らかにした。
 第6章は本研究の要約である。今日、国産材の振興という視点からみたとき、林業にかかわる生産から消費に至る過程におけるコスト削減を図る仕組みをつくることは極めて重要である。この仕組みを動かす具体的手段として情報システム化を位置付け、その緊急性を指摘している。

 参考文献
加藤滋雄 『林業・木材産業の情報ネットワーク─森林資源情報から木材VANまで』 1994年9月 日本林業調査会刊


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