中国・林政の展開と国有林経営管理に関する研究

李 天軼



 中国国有林は全国の森林面積の45%、蓄積で70%を占め、国内の木材生産の3分の2を担っており、中国林業および国民経済の中で重要な位置にある。本論文は、1949年の社会主義中国の成立とともに設立された国有林の歴史的展開と、その経営構造を明らかにしたものである。
 論文は全6章と序章および終章からなっている。まず序章では、問題意識について述べるとともにこれまでの国有林に関する理論問題およびその実証的研究について整理し、本論文の課題とそれへの分析方法を明らかにしている。
 第1章では中国の林業を概観し、社会主義中国の成立後の森林に関する土地改革が、国有林と農民の山林所有に区分し、後者はのちに合作化・人民公社化を通じて集体林に変えられていく過程を解明している。
 第2章は林業生産と林政の展開を考察している。「一窮二白」の経済の後進状態から経済建設を始めた中国では、所有の変化による森林の破壊を防ぎ、残された森林資源を保護することが林政の出発点であった。しかし、「第1次経済5カ年計画」や「大躍進」などの過程で経済建設が本格化するとともに国有林は開発され、森林資源の劣化が著しく進んだことを明らかにする。森林の造成や国土の緑化が林政上に定着するのは70年代以降、特に文化革命の後期で、全国において平原緑化や農田林網化、さらに「四旁」植樹という形で推進された。
 第3章は国有林経営の歴史過程を分析し、国有林が果たしてきた役割を評価した。その一つは中国の経済建設に大きく貢献したこと、二つは大量の労働力を就業させ、国有林地域社会を建設し、地域経済の発展に貢献したことである。しかし、それが天然林資源の開発を経済基盤にしたものであったがために、森林資源の減少と劣化が著しく進んだことを明らかにした。
 第4章は国有林の経営組織と計画的管理体制を分析している。ここでは経済改革以前と以後を比較検討している。経済改革以前には中央政府が国有林を直接管理する地域と地方政府に管理を委ねる地域があったが、現在はすべて地方政府に管理を委ねている。また、木材生産と配分は基本的に中央の計画機関によって管理・拘束されていたが、改革以降は中央政府による生産と配分計画は縮小され、計画以外の生産が地方政府の管理下にある各林業局(全国に131カ所)に認められ、各局は自主的に生産・販売できるようになった。しかし、このことが林業局の自主伐採を増加させ、国有林の森林資源の減少を引き起こすという新たな問題が生じていることを明らかにしている。
 第5章は国有林経営の現状を二つの林業局の実例で分析している。深刻化する森林資源の質的劣化と、一方で木材生産の拡大に伴って発展してきた地域社会、この狭間で国有林の経営は悪化している。葦河林業局の分析では森林の荒廃と経営の悪化の実態を具体的に解明し、つぎにこの危機を克服するために三岔子林業局が進めている内部組織と経営の改革を分析している。林業局の事業部門の専門公司化、各公司の責任、権利、利益の明確化、請負制の導入などを明らかにし、その成果を評価している。さらに1988年から各林業局に導入された経営請負制(「六包三掛鈎」)の意義について解明している。
 第6章は市場経済の導入と対外開放政策下の国有林問題を木材価格の形成メカニズムおよび林業局の資金フローから解明している。改革以降、林業局の経営自主権の拡大と利潤納付制度の改革によって、これまでの「統収統支」に代わり利潤と育林費の一部は林業局の内部に留保でき、自主的な運用が可能になった。しかし、差額収益は依然として国家に収用され、また留保された利潤も規定によって地域社会への支出に向けられ、森林の再生産に向けられていないこと、このことが森林の劣化の理論的根拠であることを明らかにしている。
 最後に終章で本論文を要約し、残された課題として国有林の永続的経営に向けての国有林地域社会の在り方、市場経済移行過程での森林資源管理の重要性を指摘している。

 参考文献
李天軼 『中国林政の展開と国有林経営管理に関する研究』(林政学研究レポートNo.2) 1993年3月  京都大学農林経済学教室林政学教室刊


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